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英語とはどんな言語か

 どうしても言語や英語に関するものが増えてしまうのだが、あまり著名な英語学者の著作を読んだことがなかったので、読みやすそうな安井稔(2014)『英語とはどんな言語か』開拓社を読んだ。著者は今年の5月に亡くなっているが、それまでのあいだも著作の発表を続けており、非常な有名人である。

 

 

単なる文法解説書ではない

本書は著者が英語に関するいくつかのトピックについて記したものであり、21章から構成されている。本のタイトルからは文法についての解説が羅列されているような印象を受けるかもしれないが、決して単なる文法解説書ではない。そのようなものを期待している場合には、別のものを読んだほうがよいだろう。
 たとえば、19章の「よどみなく英語を話すために」などは、文法解説の本にはあまり書かれていないものである。かといって、有用な表現をただ並べるというたぐいのものでもない。英語の力をあらわす基準はいくつか存在するが、そのなかで単語力(あえて語彙力とはいわない)は決して珍しいものではない。単語をいくつ知っているのかというのはたしかに英語の力をあらわしているのかもしれない。しかし、われわがの単語は、しばしば市販の単語帳をどのくらい覚えているのかと結びついている。もちろん、それは重要な事ではあるが、単語がどのような使われ方をするのか、ある単語はどういった単語と共起しやすいのか(クラスターを形成しているのか)ということのほうが重要になる場合が多い。この点では、単なる日英語の意味の対照のみを行う暗記法や試験というのはあまり効果をもたない。すくなくとも、もっとクラスターを意識した英語学習をしなければならないだろう。
 このように、単に英語のしくみや言語の構造について述べるのではなく、英語学習についても触れられていたり、英語の運用についても触れられていたりと、トピックは多岐にわたっている。もちろん、ひとつひとつの章はそれ自体で非常に読み応えがあるものなので、英語に関心のある人にとっては学ぶことのおおい本だろう。

言語には得意とする表現がある?

結局英語とはどんな言語なのかという点についてなのだが、本書でも述べられているように、この問いに対する決定的・実証的な答えというものは得られないだろう。しかしながら、いくつかの答えを得ることはできるだろう。私が考えるには、それぞれの言語は得意とする表現のしかたを持っているとは言えそうである。「得意」というのは「優れている」という意味ではなく、ある形式の表現を「あらわしやすい」という程度の意味合いなのでなにも厳密な考えではない。たとえば本書では、日本語と英語のあいだでの「名詞化」という過程が述べられているが、英語は動詞等の名詞化を行いやすいようである。つまり、ある動作や状態を名詞として表現して、文の主語とするのが得意なのである。もちろん、似たような状況について日本語でも描写することはできるが、名詞表現は用いない。これは、大学受験で問われる名詞構文や無生物主語構文といわれるようなものも含んでいる(そして、この種の問題には解答の公式が存在している)。
 このようにそれぞれの言語が、他の言語と比べてどのような表現を用いやすいかということを考えるとおもしろかもしれない。